私の本音は、あなたの為に。
それに、私の事を抱き寄せようとしていた時。


急に、


『いっ!?』


そう声を上げ、右肩を力強く掴んでいた。


あの時の大ちゃんの表情は苦痛に歪み、押さえていた右腕は小刻みに揺れていたではないか。


その時私が拾い上げたサングラス。


私は大ちゃんの右手にサングラスを渡しかけていたけれど、それを掴んだ大ちゃんの手は、左手だった。


もしもサングラスを右手で掴んでしまったら、また痛みが走るかもしれないから。


けれど、私にはその事を絶対に知られないように。


大ちゃんは、見事に私を騙し続けたのだ。



(あっ……)


大ちゃんは、別れる間際に


『もし、この後に優希ちゃんの気持ちが変わったら…優希ちゃんのママに本当の事を言いたくなったりした時、俺が居なくても平気?』


と、不安そうに聞いてきた。


あの時。


大ちゃんは、日本での自分の存在意義を確認したかったのではないだろうか。


日本では、自分は必要とされているのか。


悔いのないよう、アメリカに戻りたくて。


リラックスして、手術に挑めるように。


けれど、あの時の私は


『大丈夫だと思うよ』


と、返事をしてしまった。


だから、大ちゃんの顔に影が差したのだ。
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