私の本音は、あなたの為に。
「遊大君、本当は退院出来るはずだったのよ」


ママは、自分の使ったバスタオルを片付けながら話し続ける。


「戻って来たら、遅れをとった今までの勉強を始めたいって意気込んでいたのに…。今回日本に帰って来れたのだって、病院側の親切心かららしいのよ」


大ちゃんなのか、誰からそんな情報を仕入れたのか分からないが、ママの説明は止まらない。


「遊大君の病状、かなり深刻だから本当は帰国が出来なかったのよ。…それでも、少しの間でも日本に居れたから良かったわね…」


「うん……」


私の返事は、上の空だった。


次は、大ちゃんがいつ日本に帰国出来るか分からない。


ママは、リハビリはこの前の手術よりも過酷かもしれないと言っていた。


だから、もしかすると大ちゃんが日本に戻って来れるのは、数年後になってしまうかもしれない。


「大ちゃん……」


そっと声に出して彼の名を呼んだ私は、


「母さん、ありがとうっ」


と言い残して、走って自分の部屋へ向かった。



自分の部屋に戻った私は音を立ててドアを閉め、床に置いてあるリュックサックからスマートフォンを取り出した。


(どこだっけ…?)


焦るあまり、指が震えて違う所をタップしそうになる。


(よしっ!)


慌てながらも電話帳を開いた私は、迷う事なく


“大ちゃん”


と書かれた場所をタップした。
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