私の本音は、あなたの為に。
彼の見せる、私とは違う屈託の無い笑顔。


裏表の無い笑顔。


その表情を見ているうちに、私の手の震えはいつの間にか治まっていた。


もっと言うと、私は自然と笑顔になれていた。



「安藤が来なかったからさ、俺図書室行けなかったんだよ。本当に大変だったんだから」


その言葉に、私は違和感を覚える。


(私が居なくても、係には来れるはず)


(“行かない”んじゃなくて、“行けない”って何?)


「えっ、何で?私が居なくても、係には来れるんだよ?」


私が質問をすると、五十嵐は何故か顔が青ざめ、目を泳がせた。


「えっ……ああっ、そうだったの!?知らなかったよ、今度からはそうするね」


私の真正面に座った五十嵐は、小刻みに頷いた。


(何だ、知らなかったんだ)


五十嵐が図書室に来なかった理由が分かった私は軽く笑い、時計を見た。


16:10。


まだまだ、時間はある。


「…じゃあ私、本読んでるね。…誰か来たら、カウンターお願いしていい?」


私は提案し、五十嵐はにっこりと頷いた。


そうと決まれば話は早い。


(久しぶりの読書だ!)


私の高まる心は、治まる事を知らない。


(やった、やった!)
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