私の本音は、あなたの為に。
家からも解放され、今は五十嵐とも少しずつ会話が出来るようになった。


思っていたより彼との仲直りは簡単で、私の恐怖心もそれ程強く無かった様だ。


きっと、想定していた未来を怖がっていただけ。



私は、鼻歌を歌いながら本棚へと向かった。


その時。


「ねえ、俺にも本読ませて。何か本持ってきてくんない?」


五十嵐が、私に向かって言葉を投げ掛けてきた。


「えっ?」


私は足を止め、彼の方を振り向く。


「何か、本読みたい気分だから」


五十嵐はスマートフォンをリュックにしまい、にこりと笑って見せた。


「分かったけど…、どんな本がいいの?」


私は、本棚と本棚の間をうろつきながら質問をする。


「んー…簡単な本がいい」


「簡単な本?」


簡単な本といっても、人によって考え方は様々だ。


それを伝えると、五十嵐は付け足した。


「文字が大きくて、薄いやつ…。幼児向け?的なのがいいな」


(は?)


「幼児向け!?」


私は、思わず素っ頓狂な声を上げる。


私たち高校生が読む本といえば、字が少し小さめでページ数の多い、読みがいのある本だと思っていた。


けれど、五十嵐のリクエストした本は私の理想とする本のどれにも当てはまらなかった。
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