私の本音は、あなたの為に。
「昔昔……ある所に、お…爺さんと、お婆さん……が住んで、い…ました。……うんうん、これは分かる」


と、急に雑音が入ってきた。


「何?」


私は、落ちてきた短い髪の毛をかき上げながら前を向く。


目の前に、五十嵐の悪戯っぽく笑う顔があった。


「“桃太郎”、朗読してみた」


(私が、読みたかった本読めなくなるじゃん!)


彼は、私の不機嫌そうな顔に気付いているはずなのに。


にこにこと笑って、ある提案をしてきた。


「俺が朗読するからさ…。安藤、俺が長い間沈黙したり、分からなそうにしてたら教えてくれない?」


「えー…」


(私の読みたかった本は、どうなるの?)


私の心の問いに気付いたのか、五十嵐は笑って答えた。


「別に、読んでてもいいよ。俺が読んでるの聞いてればいいから」


「…分かった」



私は頷き、すぐに目の前の本に目線を戻した。


私の目の動きを追い掛けるかの様に、五十嵐の声も聞こえてくる。


「えーっと?……お爺、さんは…や、まに…し、ばかりに…?えっ?……何これ、お…お婆…ああ、お婆さん!なるほどー…」


朗読をしながら独り言を呟く彼。


そういえば、彼が選んだ本は意外と平仮名が多めの本だった気がする。
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