私の本音は、あなたの為に。
「…マジでそんな事書いてあるの?」


いや、この話知らないわけじゃないんだよ。確認なんだけどね、と言い訳をする彼。


それは、全く言い訳になっていなかった。


「えっ?書いてあるよ。…五十嵐、読めないの?」


「…!」


その時、一瞬五十嵐の体が強ばった気がした。


(そっか、五十嵐は目が悪いって言ってたもんね…)


そんな五十嵐に気付いていた私は、勝手に納得をして今立てたばかりの仮説を口にした。


「五十嵐、目が悪いんだもんね。…まあ、仕方ないんじゃない?」


その途端。


後ろから見ていると、五十嵐の肩から力が抜けた様な気がした。


「っ…そうそう!俺、目が悪いんだよ」


何だか今の彼の返答の仕方は、自分が目が悪いという事を忘れていた様な響きに聞こえた。


「五十嵐、眼鏡は持ってないの?」


私は、そう提案する。


見えないのなら、見える様にする。


その考えが、鈍感な五十嵐にも伝わった様だった。


「眼鏡、あったと思う」


「じゃあ、今度持ってきてよ!そしたら、今よりもスムーズに読めるかもしれないよ?」


「あー…うん、そうだね!来週持ってくるよ、ありがとう」


五十嵐は笑って頷いた。


そして、また五十嵐は“桃太郎”の続きをかなり間を開けてつっかえながら読み始めた。
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