私の本音は、あなたの為に。
この前の様に、彼が本棚へ行く時は目を瞑って目的の場所まで走り抜ける。


酷い時には、私の袖を力いっぱい握って下を向いて着いてきたこともあった。


「良いよ」


その理由を、私はまだ聞かない。


いつか時が満ちた時の、お楽しみだ。



私は本棚に行って五十嵐が読んでいた本を取り、座ってこちらを見ている彼に手渡した。


五十嵐はいつの間にか自分の眼鏡を付けていた。


黒縁メガネが、彼のシュッと引き締まった顔と大きな目に似合っている。


「五十嵐、眼鏡似合ってるじゃん」


私は、彼の横を通り過ぎながらそう褒める。


「ありがと。…じゃあ俺、また読むから宜しくね」


“宜しくね”とは、五十嵐が言葉を詰まらせた時に私が教えてあげる事。


私は、本を読むのをやめて直接五十嵐の音読を聞くようになっていた。


こんな事をもう10回はやっているはずだけれど、五十嵐の読むスピードは未だに上がってきてはいない。


読み間違える事も、急に文を飛ばす事も、言葉の途中で押し黙る事もある。


それでも諦めない五十嵐が、私は友達として好きだ。



「それじゃ、始めるね」


「うん」


私は、短い自分の髪の毛を三つ編みしながら頷いた。


するりと解けてしまっても、私は何回でもやり直しながら彼の遠くまで響き渡る様な声を聞く。
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