私の本音は、あなたの為に。
そうやって笑えていた日々は、もう来ない。


『優希、ほら見なさい!勇也がボールを取ったわよ!』


『優希、勇也のチームが勝ったわ!』


『優希、今夜はお祝いよ!』


そう言って私の手を取ってはしゃぐママ。



『優希、どうしたの?』


『勇也も優希も、支度はできた?』


『あなた達2人は、本当に仲が良いのね』


時には心配してくれたり、怒ったり、呆れながらも笑ってくれたママ。



それなのに、今は。


『勇也、サッカーは楽しい?』


『勇也、今回のテスト点数良かったわね!』


『勇也、今度の週末、一緒に出掛けましょう』


私の名前なんて、呼ばれない。


私の存在なんて、何処にもない。


(それなら、私は何なの?誰なの?)


自分でも分からない、もやもやとした感情が胸の中に渦巻く。


胸が苦しくなり、手が震える。


本の文章が揺れ動き、ちっとも頭に入って来ない。


(五十嵐が居るんだから、冷静にならないと)


そう考えて落ち着こうとしても、手の震えは治まらない。



バタンッ……


手の震えが止まらず、私が読んでいた本を落としたその時。


「何読んでるの?」


後ろから、ひょっこりと五十嵐が顔を出してきた。


「えっ…」
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