私の本音は、あなたの為に。
「…今日、急にごめんね」


唐突に、五十嵐の方から話題を変えて話してきた。


「えっ?」


そう聞き返したものの、彼が何を言いたいのかは安易に想像が出来た。


先程、五十嵐が図書室でパニックになった事だろう。


「図書室の。…何か、自分でもどうしようも出来なくて……あの時、1人で居るのが凄く怖かったんだ」


五十嵐は、ポケットに両手を入れながら話し続ける。


「1回さ、安藤、俺から離れたでしょ?」


きっとそれは、五十嵐が落とした本を私が戻しに行った時の事だ。


「うん」


私は、ゆっくりと頷く。


「あの時ね、…安藤があのまま、俺の前から消えちゃうのかと思ったんだ。……ずっと、独りぼっちで図書室に居るのかなって」


五十嵐は、恥ずかしそうにこちらを見る。


その両目は、未だに赤く染まっていた。


「俺、絶対耐えられないって思って……安藤無しで図書室に居るの、金輪際経験したくないって思って…」



その時、私は気付いた。


彼が、ずっとポケットに手を入れている理由。


それは、両手の激しい震えを隠す為だと。


ポケットから浮き出て見えるその手は、拳に握り締められていて。


私には、五十嵐の考える事全てが分かる訳ではない。
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