私の本音は、あなたの為に。
「うん、こちらこそ。…また、辛くなったら言ってね?いつでも力になるから」


私は、優しくそう微笑んだ。


(五十嵐、面と向かって“ありがとう”って言えるじゃん)


「っ、うん」


何かを言いたげな表情を浮かべた五十嵐は、口を引き結んで私に手を振る。


「じゃあね、また月曜日に」


「うん、またね」


私も、もうこちらに背を向けて歩き始めた五十嵐に向かって手を振る。



そして、五十嵐とは正反対の方向に歩き始めた私は、大きく息をついて髪の毛を掻き回した。


(ママ……)


これから、私が一切“優希”にならない、“女”にならない、週末が始まる。



「ただい……」


「お帰りー!勇也、ちょっとこれを見て欲しいんだけれど」


私が家に帰ると、ママがとても嬉しそうな顔をして小走りでこちらへやってきた。


その剣幕に押された私は、思わず“ただいま”と言いかけた口を閉じてしまう程で。


「母さん、どうしたのさ?」


私は素早く荷物を自分の部屋に置き、にこにこと笑っているママの元へ駆け寄った。


「勇也、明日は予定はあるの?」


早く何かを言いたくてたまらないらしいママは、矢継ぎ早にそう質問をしてきた。
< 209 / 309 >

この作品をシェア

pagetop