私の本音は、あなたの為に。
漏れている自分の独り言にも、集中している五十嵐の耳には入っていないのかもしれない。


私は苦笑いを浮かべ、別の本を手に取った。


(人は来ていないし、良いよね…)


パラパラとページをめくり、文章に目を通したその時。



上の階から、ピアノの音が聞こえてきた。


「吹奏楽部…?」


間抜け過ぎる五十嵐の問いに、私は笑って首を振った。


「違うよ、ピアノ」


「…なるほど。上手だね、誰が弾いてんだろ」


私は即答する。


「花恋(かれん)だと思う」



宮園 花恋(みやぞの かれん)は、私と同じ紅月中学校から紅高校に来た生徒のうちの1人だ。


幼い時からピアノの能力を発揮し、今ではピアノが彼女の生きる糧の様になっている。


そんな花恋の事を学校側は理解し、毎日の放課後は音楽室を使っていいと言ってくれたらしい。


クラスは別々だけれど、私と花恋は親友で、誰にも言えない事も言えるほどの仲だ。


つまり、花恋は私が男になっている事も知っている。


けれど、花恋はその事を誰にも話さないと知っているから。


口が堅い花恋は、どんなに言及されても一言も漏らさないはず。


だから私は、安心出来る。
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