私の本音は、あなたの為に。
「花恋って、誰?」


五十嵐がピアノの音が聞こえる方向を見ながら、私に質問をした。


「私と同じ紅月中から来た子だよ。宮園 花恋。…確か、2組だったと思う」


「ピアノ、習ってんのかな…」


「うん。花恋の実力は凄いからね」



いつの間にか、聞こえてくるピアノの音は誰もが知っているリズムを奏でていた。


「これって…『エリーゼのために』?」


ベートーヴェンの作曲した有名なこの曲は、誰でも1度は耳にした事があるはず。


「宮園って、凄い」


感嘆の声を上げる五十嵐を見て、私は笑って口を開いた。


「花恋の実力は、もっと凄いよ」


私の言葉が言い終わるか言い終わらないかのうちに、ピアノのリズムが打って変わった。


軽やかに聞こえてくるそれは、明らかに『エリーゼのために』ではない。


もっとテンポが速く、時には半音階も入っていて。


「この曲、俺知らない…」


天井を見上げ、あんぐりと口を開けたままそう言う五十嵐。


「うん、私も分からない」


明るい曲だと思えば、すぐに場面が切り替わって暗くなったり。


軽やかなリズムだと思えば、瞬く間に水の流れの様なゆったりしたテンポに切り替わったり。


ピアノを弾く花恋の楽しそうな顔が、目に浮かぶ様だ。
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