私の本音は、あなたの為に。
「本とか読めばいいのに」


後ろのロッカーの上に学級文庫あるよ、と私は苦笑した。


「…いや、俺……」


五十嵐の、何とも言えないその返答。


何かをはぐらかす様な曖昧な言葉の中に、


『追及しないで』


という思いが込められている様な気がした。


「そう…」


私はその思いを汲み取り、それ以上話題を掘り下げなかった。



3時間目の国語の時間。


「…つまり、この単語はこの文節を修飾している事になります」


国語を担当する男の先生の声を聞きながら、私はノートに黒板に書かれた字を写していた。


先生の文字を書くスピードは早く、止めることなく手を動かしていないとついていけない。


それに加えて色ペンで印もつけないといけないのだから、大変だ。


「じゃあ、ここまで書いてください」


一区切りがつく所まで書き終えた先生は、ようやくチョークを置いた。


(疲れた…)


黒板に書かれた事を全て移し終えた私は、ほっとして肩の力を抜いた。



何の気なしに横を見ると、五十嵐が教科書のみを開いていた。


ノートが、机の上に出されていない。


「五十嵐、ノートは?」


気になった私がそう尋ねると、


「ああ、俺、ノートに書かない主義だから」


と、笑いながら言われた。
< 25 / 309 >

この作品をシェア

pagetop