私の本音は、あなたの為に。
「安藤が見てる字が、俺には全然違う風に見えるんだ。…ぼやけたりとか、滲んで見えたりとか」


「でも、その位なら目が悪いって事にはならないの?」


そんな私の問いに、五十嵐は私の目の中を見ながら答えた。


「それだけなら、目が悪いって判断できるかもしれないけど…。俺、実際の視力検査は両方Aだし、後…字が、動くんだ」


「…字が、動く?」


オウム返しにそう聞き返し、私は首を捻った。


(字が動くって何?だって、字って止まってるじゃん。そもそも字は生き物じゃないよ)


彼は私の考えを読んだのか、


「うん、俺だって知ってる。字が生き物じゃない事くらい」


と笑い、続けた。


「でも、そう見えるんだ。…たまに、目が悪い人が遠い所から字を見て、『ありの行列みたい』って言ったりするの、分かる?」


私は、こくりと頷く。


「俺が見てる字は、あんな感じ。字がずっと動いてて重なって見えたりするから、酷い時はどれが文字かの区別すら出来ないんだ」


(え……)


字って本当に嫌い、と自虐的に笑う五十嵐を見て、私は新たな疑問にぶち当たった。


(字を読めなくて、字が嫌いなら、何で…)


「何で、図書委員に入ったの?図書委員にならなければ、五十嵐が字を見る回数も減るのに…」
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