私の本音は、あなたの為に。
そうなのだ。


彼は、図書委員に入っている。


図書室には、本や漫画しかない。


つまり、見渡す限り彼の嫌いな字しかないのだ。


(それなのに、何で…)


「ああ、それはね、字嫌いなのを克服しようとしたから」


今まで1度たりとも私の目から視線を外さなかった五十嵐はゆっくりと目をつぶり、彼に起こった昔の話を聞かせてくれた。




小学校に入学する前から、普通の人と自分は文字の見え方が違う事に気付いていた五十嵐。


その為、小学校に入学後の国語の授業と図書の授業だけは、通常クラスから離れて読字障害専門の先生に授業を受けていたという。


専門の先生に教えて貰っていたおかげで、まだ字嫌いではなかった五十嵐は、普通の人程スムーズには読めないものの、文字を読むコツを掴んできていた。


「3年生の図書の時間だったかな?…4年生かも…とにかく、図書の時間だったんだ」


けれど、その図書の時間の時。


「俺、先生と一緒に本を読んでたのね。安藤が持ってきてくれたみたいな、簡単なやつ。…で、読んでてしばらくした時、先生が職員室に用事があるって言って図書室から出て行っちゃって」


『すぐに戻ってくるから、続きを読んでてね。先生が戻ってきたら、どんな内容だったか教えてね』


『分かった、先生』


専門の先生が席を外した後、五十嵐は1人で音読をしていた。
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