私の本音は、あなたの為に。
けれど、1分も経たないうちに。


『…分かんなーい、これ何て読むのー?』


「いつもみたいに、読めなくなってさ。1回そうなったら、先生が居ないと読めないのは分かってたから、俺…」


幼い五十嵐は今まで読んでいた本を閉じて、本棚を見回した。



『他の本、読みたいな……っ!?』


その時。


『っ………!』


本棚に、丁寧に陳列された本の数々。


その全ての題名-つまり字-が、いつもよりも激しく動いていた。


『何っ?何これ!?』


「あんなの、初めてだった。…あの時本気で、“字が俺を襲ってくる”って思ったんだ」


ありの行列の様に動き回り、ぼやけてかすみ、滲み。


急に形を変え始めた文字は、到底五十嵐には解読なんて出来なくて。


『嫌だ、やだやだっ!』


ありふれた字が、化け物にしか見えない。


(怖い!先生、まだっ!?)


思わず、幼い五十嵐はその場にしゃがみ込んだ。


『来ないでっ、来ないで!』


突如現れた字への恐怖の余り、五十嵐の身体はがたがたと震えていて。


『何があったの、五十嵐君?』


五十嵐の声に驚いて駆け寄った、司書の先生。


「あの時、助かった!って思って、司書の先生を見たんだけど」


『せんせっ………やっ、やだああっ!!』
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