私の本音は、あなたの為に。
五十嵐はあろう事か、司書の先生の後ろの本のポスターを見てしまったという。


「あの時は、図書室のものは全部敵だと思った。……それで、字嫌いになったんだ」


「そうだったんだ…」


五十嵐は私に何か隠していると思っていたけれど、彼がとても苦しんでいたなんてやはり実感が湧かなくて。


私には、彼が字に対して感じている恐怖がどれ程のものかは分からないけれど。


でも…。


(あっ)


そこで、私は気が付いた。


「この前、五十嵐が図書室で急に、その、泣いたのも…」


「ああ、あれもそうだよ。…此処に入学した時は、字嫌いが少し治まってたんだけどね」


当たり前の様に頷いた五十嵐は、そうなった経緯を簡単に話してくれた。


「ほら、俺が1番最初に安藤に“男っぽい”って言った日の事、覚えてる?」


(私が図書室から逃げ出して、花恋に助けを求めた、あの日…。もちろん、忘れるわけない)


あの時、本当に彼には近付きたくないと思ったのだ。


私は深く頷いた。


「あの時、安藤が図書室から出て行ったでしょ?…俺、最初はどうすればいいか分かんなくて」


「それって、私を追い掛けるか追い掛けないかって事?」


私の問いに、彼は私から視線を逸らさずに頷いた。
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