私の本音は、あなたの為に。
「うん。…でもあの時も、また…字が、うねうね動いて、小学校の頃の記憶と重なって……。怖過ぎて、図書室から逃げなきゃって思って、それで安藤を追い掛けたんだ」


私は、息が出来なかった。


彼が私を追い掛けた理由はともかく、高校内でも苦しんでいた五十嵐に、気付けなかったなんて。


「それで、あの後、俺図書室の前で宮園と話したでしょ?…あれも、安藤が居ないと図書室に入れなかったから」


自身の苦しみを言葉にしていく五十嵐の目は、ゆらゆらと揺れていた。


「安藤が図書室に来なくなって、俺が係の仕事をサボったのも、また字が怖くなったから」


「っ……」


私は、ごくんと唾を飲み込んだ。


「あの後、俺が本を読む様になったのは、ただ単に克服しようとしたんだけど…。でも、駄目だった」


それが、五十嵐が急に私の姿を捜し求めたあの日だという事は、私にもすぐに分かった。


「あの時も、やっぱり怖くて…。自分じゃ、どうしようもなくなって。…小学校の時は、実質独りぼっちになってたから、またなりたくなくて、それで…。あの時、本当にごめんね」


「そんな、事……」


私は、否定しようとして口を閉じた。


五十嵐が、まだ何かを言いたそうにしていたからだ。


「何?」
< 277 / 309 >

この作品をシェア

pagetop