私の本音は、あなたの為に。
そう、きっかけを作ると。


「安藤も気付いてると思うんだけど。…俺が今日ずっと安藤の目しか見てないのも………。怖いから………」


佐々木が来て、またぶり返しちゃったみたい、と笑う五十嵐の目は、潤んでいた。


「っ………」


彼の今の気持ちを聞いたその瞬間、私は椅子を蹴って立ち上がっていた。


「えっ!?」


急な事に驚いた五十嵐は、一瞬私から目線を外し、


「げっ……」


と、哀れなうめき声を上げた。


私の後ろの、ポスターの字でも見たのだろう。


私が居るにも関わらず、いつかと同じ様に固く目をつぶってしまう五十嵐。


そんな彼の真横に立った私は、そっと彼の肩に触れた。


「!」


弾かれた様に立ち上がる五十嵐を、私は。


「ごめんね、気付いてあげられなくてっ……!」



五十嵐を私の方へ引き寄せ、抱き締めた。



「えっ……」


突然の事に、私に抱き締められている彼からは戸惑いの声しか聞こえない。


それでも、私は彼を抱き締める力を緩めなかった。


「私、ずっと自分の事だけ考えて、五十嵐から逃げてた時もあったから…。気付いてあげられなくて、ごめんっ」


「そんな、そんな事ないよ!…だって、俺がいつまで経っても克服しないのが悪いわけだし…」


私よりも少し背の高い五十嵐は、必死で否定しようとするけれど。
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