私の本音は、あなたの為に。
私はそれには答えず、ただ彼を抱き締める力を強くしただけだった。


「私、ずっと逃げてばっかりで……。五十嵐が、どんな気持ちかも分かんなくて……」


私は、そこですっと息を吸った。


「でも、五十嵐は字が読めなくても読めないなりに頑張ってきたでしょ?…それは、私も良く知ってる。……怖いって思うのは、五十嵐だけじゃないんだよ」


「っ……」


私は、軽く背伸びをして五十嵐の肩に顎を乗せた。


「…ねえ、知ってる?」


五十嵐の両腕は、まだだらりと垂れ下がったままだ。


「好きな人に30秒ハグされるとね、その日のストレスが、3分の1解消されるんだって。…しかもね、辛い気持ちが、軽くなるんだって」


「それって…前に、俺が…」


それは、いつだったか、彼が此処で私に言ってくれた言葉。


「ちなみに、私は……五十嵐の事、好きだから……前まで辛かったけど、その気持ちは軽くなったよ?」


さらりと言ってしまい、自分でも激しく後悔する。


(やばいやばい、言ってしまった!…ああ、この世の終わりだ!)


その途端。


「っ、ありがとっ……安藤、ありがと……!」


いきなり抱き締められ、私は息が出来なくなる。


(ぎゃっ!)


それでも、何とか気道を確保した私。
< 279 / 309 >

この作品をシェア

pagetop