私の本音は、あなたの為に。
彼女は1度俯き、もう1度顔を上げて言葉を続けた。


「…1度優希のお母さんにカミングアウトしてから、考え直すのも良いんじゃないかな?」


「でしょ?でしょでしょ?やっぱり宮園もそう思うよな!」


自分と同意見だった事に思わずガッツポーズを取り、花恋とハイタッチをしようと試みた五十嵐。


けれど、


「そういうのは要らない」


という花恋の鋭い一言で、彼の試みは惨敗に終わった。


(1回カミングアウトしたからって、私が急にママの前で女に戻らなくてもいいんだ)


2人のやり取りを目の端で捉えながらも、私は花恋の言った事について考えていた。


五十嵐の言い方は、その辺をはぐらかしていたけれど。


「それって」


私は、確認しようと口を開く。


「ママに言ったからって、私が“優希”に戻らなくても良いって事だよね?お兄ちゃんのままでも良いって事でしょ?」


「あー、まあ、そういう事になるな」


もう大丈夫だろう、と本棚の方をちらりと見て、眉間にこれでもかとしわを寄せた五十嵐が返答する。


「うん、やるだけやってみるのも良いかもね。後1週間位で夏休みだけど、その過ごし方もカミングアウトの有無で変わるかもしれないし」
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