私の本音は、あなたの為に。
花恋はガッツポーズをした後、頷いた。


「うん。…毎週月曜日、図書室に行きたいなって思って。月曜日はピアノが無いから」


花恋はピアノが得意で、ピアノのレッスンが土日を除いてほぼ毎日のように入っている。


ピアノが忙し過ぎて、花恋は部活には入れない。


けれど、月曜日はピアノが休みなのだ。


「うん、来て来て」


私は花恋に向かって笑って見せた。


「行く行く!……優希、まだ髪の毛短いね」


私よりほんの少し背の高い花恋は言いづらそうにしながら話題を変え、そっと私の短い髪の毛に触れた。


私は思わずびくっと反応し、肩が上がる。


「あっ、ごめんね」


花恋は謝り、先を続ける。


「髪の毛は、女の命なのに……」


花恋は、泣きそうな笑みを作った。



花恋の家は、由緒正しい和風の家だ。


昔からの伝統を守り続けた家系に生まれた花恋も、たまにこうして昔風の言い方をすることがある。


親は華道と茶道の先生で、確か花恋の祖母は着物の着付けの資格を取っていた。


だから、先程の言葉も悪気が無いことは分かっている。


それでも、私の胸はチクリと痛んだ。



「…優希のお母さん、まだ優希の事…」


花恋は周りの人に聞こえない様に声を潜めた。


「その…男だって、思ってるの?」


私は震える手を握りしめ、ゆっくりと頷いた。


「うん。……私は、ママの前では男だよ」
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