私の本音は、あなたの為に。
本当は、男ではないのに。


出来ることなら、女としてママと接したいのに。


その切なる願いすら、神様は聞いてくれない。



「大丈夫だからね、優希。…私が居るから。苦しくなったら、すぐに言ってね?」


私の声が震えていた事に気がついたのだろうか。


花恋は私を軽く抱きしめ、そう言った。


「うん、ありがとう…」


いつの間にか、列は前に進んでいた。


慌てて前へと進んだ私達。



「五十嵐、お前視力どうだった?」


何処からともなく、そんな声が聞こえてきた。


(五十嵐?)


私はその声に反応する。


「俺?俺はどっちもAとAだったけど」


その声は、五十嵐のもの。


「本当かよ?」


疑わしげに尋ねる男子の声が聞こえ、その直後に


「ほら、俺のやつ見なよ」


背伸びをして前を見ると、五十嵐とある男子が肩を並べて歩いて来るのが見えた。


私は五十嵐にばれないように、そっとかかとを地面に下ろした。


五十嵐は、自分の視力検査表を相手に差し出している。


その表を受け取った男子は、まじまじと表を見始めた。


「…本当だ。俺、BとBだったんだけど」


その言葉を聞いた五十嵐は、飛び上がって喜びを表す。


「よっしゃ!俺の方が目が良いじゃん」


男子から視力検査表を返してもらった五十嵐は、彼と共に階段を上って行ってしまった。
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