私の本音は、あなたの為に。
その一部始終を見ていた私は、首を傾げる。


(五十嵐って、目が良いの…?)


確か、この前の私との会話では、


『五十嵐、目が悪いの?』


『あっ……そんな感じ』


と、否定はしていなかった。


あの時は本を自分の顔に近付けたり、瞬きを何度も繰り返していたから、てっきり目が悪いものだと思っていたけれど。


(違うんだ…)


まだ疑問が胸の中に留まっているけれど、私はそれを無理矢理押し込め、花恋の方を向いた。



放課後。


私が図書室に着いてからしばらくして、五十嵐がやって来た。


「よっ」


五十嵐に声を掛けられた私は、カウンター席から笑い返す。


「俺、そこがいい」


リュックを机の上に置いた五十嵐は、つかつかとこちらに歩み寄ってそう言った。


「えっ?…いいけど」


私は素直にカウンター席を五十嵐に譲り渡し、また本を読もうと本棚に向かった。


「あっ…安藤、ちょっと待って」


「ん?」


五十嵐に呼び止められた私は、後ろを振り返る。


今さっきカウンター席に座ったばかりの五十嵐は、今度は立ち上がって私の近くに近付いてきていた。


「安藤、ケータイ持ってる?」


唐突に投げられたその質問に、私は困惑するばかり。


「えっ…」
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