私の本音は、あなたの為に。
勇也は、サッカーの習い事の帰りだった。


電車を乗り継いで通っていた、サッカーの習い事。


私はあまり詳しくなかったけれど、そこはとても強いサッカーチームだったらしい。


そして、勇也は3年生になったら、キャプテンを任される予定だった。


それ程、兄の実力は素晴らしかったのだ。


だから、勇也は高校はサッカーが強い所へ行きたいと言い張り、将来の夢はサッカー選手と決めていたのに。



それなのにあの日、兄の夢は儚く砕け散った。



それからだった。


ママに異変が現れたのは。


(ママ…)


私は、ぎゅっと下唇を噛み締めた。


考え過ぎたせいか、とっくに卵焼きの味はわからなくなっていて。


とにかく、色々な事があった。


勇也が居なくなってからの日常は、思い出すのも辛い。


それ程私は苦しみ、泣きたくなる程悩んだ。


もちろん、誰にも言えないまま。


ママにも、本音を言えないまま。


誰にも言えずに隠し通した結果、私はママの前で、“安藤 勇也”にならなければならなくなった。


もう居ないはずの“勇也”になるのは、私も嫌だ。
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