私の本音は、あなたの為に。
「何で、そんなに下向いてんの?首痛くなるよ」


「……」


「ねえ、聞いてる?…もしかして寝てるの?」


「……寝てないよ」


私はか細い声で返事をする。


ここで私が彼の方を向いてしまったら。


泣いていたとばれるのは、時間の問題だ。


(何とかしないと…)


必死に脳みそをフル回転させるけれど、いい案は思い浮かばない。


(どうしよう…!)


段々と焦り始めてきた私は、その焦りを表に出さないように迫真の演技をしながら、震える手で本を取り出した。


本を読んで、五十嵐の注意を背けたかった。


けれど、極度の緊張から私の目はろくに文章を追い掛けられず、何となくのタイミングでページをめくる。


内容は、ろくすっぽ頭に入ってきていなかった。


勇也の演技は完璧なのに、他の演技となると上手にはいかないらしい。


(他の演技も研究しないとな……)



全ては、自分の本音を探られない為に。


本音を言うだなんて、怖すぎて出来るはずが無い。


それなら、嘘をつき続けていた方がましだから。


「ねえ、何読んでるの?」


「安藤、返事しろって」


ずっと話し掛けてくる五十嵐の声を完全に無視し、私は無言で本のページをめくり続ける。


今がどういう展開なのかも、さっぱり分からないまま。
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