私の本音は、あなたの為に。
「……」


遂に、五十嵐の度重なる質問は終わりを迎えた。


(もう、聞いてこないよね…?)


本を読んでいる体勢を崩さないように隣を盗み見ると、五十嵐はいつかと同じ様に頬杖をついて宙を見つめていた。


(良かった……)


緊張感から開放されたと思い込んだ私は、ほっと息をついて本を閉じる。


そのまま、また五十嵐の方を見た途端。


「安藤、何で無視するんだよ」


からかう様な声を出しながら、五十嵐が急にこちらを向いた。


(えっ!?)


予想していなかった展開に、私の心臓はバクバクと早鐘を打ち始める。


(顔を逸らさないと、目を逸らさないと!)


早くしないと、目が充血している事に気が付かれてしまう。


目の周りが赤くなっている事に、気付かれてしまう。


「っ……」


それなのに、何故か私の体は言う事を聞かなくて。


彼の澄んだ瞳の奥を見つめたまま、動きが取れない。



「見ないで……」


私の必死の願う声は、声にならずに消えて行く。


「あれ…、安藤、泣いたの?目が腫れてるけど」


(ほら、気付かれた)


もう、穴があるなら入りたい。


「……ううん、そんな訳無いよ」


「じゃあ、どうしたの?」


(何も聞かないで)


何とかして聞き出そうとする五十嵐。


私は、膝の上に置かれた手を拳にして固く握りしめる。
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