私の本音は、あなたの為に。
兄を演じる度、辛くなる。


兄にそっくりに演じられているか不安なのもあるけれど、ママが私の事をどう見てくれているのかが分からない。


“優希”として見てくれているのか、はたまた“勇也”として見てくれているのか。


質問したい気持ちは山々だけれど、その答えを知りたくない気持ちが、どうしても上回ってしまう。


もしも、私の事を“優希”として見てくれていないなら、その真実は私にとって余りにも荷が重いから。



『お兄ちゃんより、私を見て』


『勇也より、優希を見て』


そう考えてしまう私が、私は怖い。



「勇也、ぼーっとしているけど、どうしたの?」


ママの声で、私ははっと我に返った。


「あっ、ううん。何でもない」


卵焼きとご飯を飲み込み、ママへ向かって笑みを見せる。


「そう…。もしかして、高校生活が不安なの?」


「うーん、そうかもな」


男の様な返事を返す私。


ママは、それが当たり前という風に微笑んだ。



私は、この4月から紅(くれない)高校の1年生だ。


とはいっても、前まで通っていた紅月(こうげつ)中学校からの入学者が大半を占めている為、特に緊張はしていない。


紅高校は、紅月中学校から連携推薦をしてくれる唯一の高校。


偏差値は60を超えているけれど、連携推薦をしてくれている為か、紅月中学校での合格者は後を絶たなかった。
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