私の本音は、あなたの為に。
｢えっ…？｣


五十嵐が驚いた様に目を見開く。


何せ、先程まで黙って俯いていたはずの少女が途端に自分の事を睨みつけているのだ、驚くのも無理はない。


彼は、自分が私の怒りと悲しみの引き金を引いただなんて思ってもいないだろう。



｢五十嵐と私は、違うの！｣


(そう、全てが違う)


それはきっと、五十嵐にとっては到底理解の出来ない程の差で。


まさに、雲泥の差。


｢“大丈夫？”って、皆上辺ばっかり……｣


全てを諦めている私は、ゆっくりと口を開く。


｢そんな事っ…！｣


五十嵐は目を見開き、抗議しようとする。


分かっている。


五十嵐がいつもと様子の違う私を本気で心配している事くらい、分かる。


『虫に刺された』だなんて嘘をつく私を、おかしいと感じている事も分かっている。


けれど心が麻痺した私にとっては、簡単に助けを求める方法を知らないから。


(そっとしておいて…)



しばらくして呼吸が落ち着いた私は、眼力を弱めて五十嵐を見つめた。


｢…ごめんね、五十嵐｣


もう、どうすればいいのか分からない。


｢っ…大丈夫、だよ｣


私の変貌ぶりにショックを受けていた五十嵐の方も、どうやら落ち着きを取り戻している様で。


けれど、私の心はまだ落ち着きを取り戻してはいない。


まだ早鐘を打っている心臓は、今にも泣き叫びそうで。
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