私の本音は、あなたの為に。
兄の事は大好きだけれど、兄が生前使っていた部屋に居るのは、何だか嫌だった。


何だか息苦しくて、“勇也”という鎖にがんじ絡めにされている様な気がしてきて。


(もう、出たい)


そう思った私は、そっとドアノブに手を掛けてゆっくりとドアを開けた。


ママの姿は無く、洗面所の方から鼻歌が聞こえてくる。


きっと、また髪の毛を巻いているのだろう。


(本当に、何なの…?)


ママは、何故私を兄の部屋に連れて行ったのだろう。


本当に、私を驚かすためのドッキリだと思いたい。


その答えを早く知る為に、私は急いで自分の部屋に戻り、ショッピングをする準備をし始めた。


お気に入りの赤いバッグに必要最低限のものを入れ、髪型を整えた私はママの所へ向かった。



「ママ、支度出来たよ。早く出掛けよう」


「うん、ちょっと待ってね…。よし、行こうか、勇也」


そう言ってコテを片付け、私の方を見たママは首を傾げた。


「あら勇也、何でスカートなんて履いてるのよ。それに、女の子みたいなバッグまで持っちゃって」


「えっ…?」


私は自分の服を見下ろす。


今日のコーデは、ゴロの入ったTシャツと白いミニスカート。


そして、赤いバッグだ。
< 60 / 309 >

この作品をシェア

pagetop