遅すぎた初恋
出会い
穏やかな凪と、キラキラと光注ぐ中に彼女がいた。
打ち寄せる波と無邪気に戯れる彼女は、抜けるような白い肌に艶やかな漆黒の髪を持ち、麦わら帽子から時折覗くその顔は、愛らしさとどこか儚さを伴って美しく、目を囚われる思いがした。

「おいっ!。そこで何をしている!」
「ここは私有地だぞ!誰の許可を得て入ったんだ!」

久々の休暇を取りに、南の島の別荘にやって来ていた私は、飼っているセントバーナード犬の散歩で浜辺に出ていた。
数分彼女の無邪気な様子に目を奪われてはいたが、どう考えても不法侵入者だ、彼女目掛けて犬を離し声を荒げた。

怒鳴った声に一瞬ビク付き、こちらを見た彼女は、それでも逃げるわけでもなく、私の存在と向かって来る犬に対して笑顔を見せた。
恐ろしくはないのか?と怪訝に思い近づいていった。

犬は彼女に飛び付いたが、倒れる事なく受け止められ、ワシャワシャと見事に懐柔されている。彼女に尾を振りながら顔を舐めようとまとわりつく様に呆れた私は、
「ジョン!やめろ!離れろ!すわれ!座るんだ」

とひっぺがした。
犬を一通り落ち着かせてから、彼女に向き直り、怒気を含ませ尋ねた。
「ここで何をしている?ここは私有地だ。関係者以外は立ち入り禁止のはずだが。誰の許可を得た?」

彼女は答えるそぶりを見せたが、何か躊躇っている。そして、私の後ろに目をやり満面の笑みを浮かべた。
「兄さん!僕だよ。彼女を入れたのは。兄さんにも挨拶を、と思って連れて来たんだ。星羅、兄の広高だ。」
「初めまして、鈴白星羅です。」

ゆっくりと近づいてくる、何年かぶりの弟の存在に瞠目し、彼女の凛とした声に引き戻された。
怒気を露わに彼に詰め寄り、
「隆次、今までどこで何をしていた?今は何をしているんだ?この女は誰だ?」

「兄さん、彼女は僕の妻だよ。」




< 1 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop