遅すぎた初恋
「ふーん、まあそうね。お父様から聞く限り仕事人間というのは間違いないわね。貴方の力説からも、社員からの信頼は厚いっていうのも強ち間違いではないのかしら。」

と、ゆかり様はおもむろに手を伸ばして、私の頬に触れ、目を覗き込んでくる。私は、ええっ⁈と、固まって見ているだけだ。
「貴方の目は本物ね。本物を見極める目を持ってそうね。」
と、言って、頬から手を退けた。
「まっ、私の直感だけど、貴方は信用できそうね。榊さん。」

このお嬢様は俺より年下だよな。と自問自答する。なんだかなぁ。なんかなぁ、やばいなぁ。
と考えていると、いきなり運転席のドアがガチャっと開いて、とてつもない冷気を漂わせた、隆俊様がいらっしゃった。

「おい。榊、何をやってるんだ?」と冷え渡る声を出して。
「なんで、お前の隣にゆかりさんがいるんだ?何を楽しそうに話してるんだ!」

と、かなり怒ってらっしゃる。

「いや、これは…ゆかり様が上から降って来て。その…ええっとですね。」

と、私もどう説明して良いものか、言葉が出て来ない。
と、そこに
「へえー。貴方でも、そんな顔するんだ。」

と、ゆかり様が声を出した。

「榊さんは悪くないわよ。ちょっと捕まえて、話をしてるだけ。だっていい加減飽きちゃったんだもの。貴方とのほぼ毎日のやり取りに。」
「だって、貴方、何も自分の事喋らないで、人の顔をただじっと見てるだけじゃない?こっちから質問してもしどろもどろで、はっきりしないし。顔を見たのならさっさとお帰りになったらよろしいんじゃなくて?」
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