遅すぎた初恋
「性急で何が悪い。んなもん、自分のテリトリーに入ったんだ。みすみす逃すか。」

「よく言いますよ、さっきまであたふたしてらっしゃいましたのに。ゆかり様のお心がご自分にあると分かった途端これですもの。気持ちより体が動くなんて、貴方は思春期の学生ですか。」

「ほっとけ。まあ、いいだろ。俺なんて、思春期なんてまともに経験した事なんてないんだ。女性経験だって、この歳の割には少ない方だと思うがな。それもあって、ゆかりに対して気の利いた言葉も出ない。本当に眺めているだけでも良かったんだ。それでも、男として反応するものはするさ。何回も言うが、あの子を目の前にすると、何もかもが初めてなんだ。さっき、榊と二人でいる所を見た時なんて、頭で分かっているが、榊を殴りたくてしょうがなかったからな。あんな嫉妬心すらも初めてだ。」

「それに、榊だって、あの子の瞳にのまれそうになってただろ?」

「さあ、どうでしょうか。確かに魅力的ではあると思いますがね。少々気がお強いのは、私は如何なものかと思いますが。」

「榊」

「はい。」

「惚れるなよ。」

「…何を、おっしゃいますやら。」

「俺の物だ。誰にもやらん。お前でも、容赦しない。」

「はいはい。心得ておりますよ。」

本当に何をおっしゃいますやら…。隆俊様でも手を焼くぐらいなのに、私なんてとてもとても。
「貴方の目は本物ね」か…。覗き込む瞳が美しかったなと少しだけ思いだした。
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