遅すぎた初恋
「あ、あと、じゃあ笑顔禁止令も無しという事で!自然に出るものを意識して止めるなんて身体に悪いし、頭もこんがらがっちゃって挙動不審者になるし、老けちゃいそうなので、無しでお願いします!私の取り柄って笑顔しかないんで!じゃ!お義兄さんおやすみなさい。」

と笑顔を見せて邸に戻って行った。

その後ろ姿を見送っていると、フッと笑みがこぼれる。なんだあの女は?泣いてたんじゃないのか?いや、確かに彼女は泣いていた。
窓から見えた時にはもう泣いていると思っていた。一人寂しく。誰にも見せないように。

本当は私にも見られたくはなかったのだろう、と彼女が去ってから思う。関わらないつもりだった。でも何故かほっとけなかった。慰めようと思った訳じゃない。だが、何故か体が動いた。

隆次は何をやっているんだ。お前の前で彼女は泣くのか?彼女は確かに凄い子かもしれない。だけど彼女は強いんじゃない。弱さを人に見せれないだけだ。甘えたくても甘え方を知らないんだ。強いのは見せかけで中身は案外脆いんだ。隆次分かっているか?

満面の笑みで立ち去って行った彼女に面食らった。何事も無かったように笑う彼女に。何か言葉をかけたくなった。そして抱きしめたくなった。私の役回りではない事は分かっている。それでも…

イルミネーションを見上げるとその先には澄み切った空に満天の星々が輝いている。

「広兄の方が合うと思うんだよなぁ〜」

叶の言葉を思い出す。
そして弟の為に大立ち回りを演じた彼女の姿を思い出す。そしてさっきまで一人で泣いていた彼女を思い出す。
馬鹿げている。そうだ馬鹿げている。さすがに寒くなって来て、自室に戻った。
< 20 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop