遅すぎた初恋
「ええ構いませんよ!終わったら、上がって下さい。」
と、にこにこと吉爺が嬉しそうに返事をしている。
トキさんは「本当に泥だらけじゃありませんか」と、しつこく小言を言いながら彼女を急き立てる。

この家の人間は皆すっかり懐柔されているな。
邸の雰囲気がなんとなく前にも増して明るくなったような気がする。
そう思いながら、母に挨拶を終え。皆で昼食をとり。

急ぎの仕事を終わらせてしまおうと書斎に向かう。生前父が使っていた書斎をそのまま使ってはいるが私が受け継いでからは、少し改装し書斎兼趣味部屋と化している。

ここには誰も入らせた事が無い。鍵も自分が所持している。あまり、自分の趣味をひけらかす事も嫌だし、大切なものに触れられたりされるのも嫌だ。だから、面倒ではあるが定期的に帰っては自分で掃除をしている。

元々古い部屋のため、締め切っているとカビ臭さが主張してくる、空気の入れ変えをしようと、窓を開けるとフワッとほんのりと甘い花の香りが、柔らかな日差しと共に入って来る。

吉爺が世話をしている花々が咲き乱れている。
これなら後で薔薇園の方も覗いてみてもいいだろうと、とりあえず、仕事と片付けに取り掛かった。

仕事はすぐに片付いたが、部屋の掃除はなかなか…。結局色々と脱線してしまう。日差しも柔らかみを帯びて来たので、一先ず休憩!と思い、本を片手に薔薇園に向かった。
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