遅すぎた初恋
薔薇園に着けば、やはり見事だなと、一人感嘆する。
大小様々な薔薇が咲き乱れ、辺りが甘い香りで包まれている。
昔よりは縮小したものの、見応えは十分だ。
少し迷路のようにもなっていて、幼い頃は母や弟とここで隠れんぼをした。

奥に進んで行くと、今ではアイスバーグのツルが幾重にも巻き付き見事に生い茂っているアーチ型のベンチが置いてある。
そこで読書でも、と思い近づくと先客がいた…。
星羅だ…。本を読みながらそのまま寝てしまったんだろう、芝生の上に本が落ちている。
やれやれと思い、埃を落として空いているスペースに本を置き、彼女の寝顔を見つめる…。
先程までの庭仕事に疲れたのか、スヤスヤと深い眠りに落ちているようだ。

まだ…あどけない幼さが残るが、この頃は妖艶さも増しているのか、さっきもつい目を遣ってしまった。
抜けるような白い肌に、艶やかな唇…。長い睫毛に、漆黒の美しい髪…。

他人の寝顔を、ましてや一夜を共にした女にさえ、こんなに時間をかけてまじまじと見つめる事など今までにはなかった。

見入ってしまう…。

スウッと無意識のうちに手が伸びて、彼女の頰に指先が触れる…きめ細やかな肌だ…そして柔らかそうな唇にも無遠慮に触れてしまった…。

辺りをより一層甘い香りが立ち込める…。

むせかえるほどに、甘く…甘く…薫…薫。

狂う…狂う…。欲望がそろりと顔を出す。

優しく触れ…貪欲に…貪る…貪る。
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