遅すぎた初恋
個展は開催の期間は短めにしてもらい、予定通り開く事にした。
短過ぎる命だったが、隆次の絵にかけた努力と情熱は何十年生きた人間の努力にも引けは取らない。それを知ってもらいたい思いで開催することにしたのだ。

母は星羅を心配しながらも、葬儀の段取りがあるからと、先に日本に戻っていった。

星羅はこちらに来てから、全く声を出さない。泣きもしない。問いかけても頷くだけで、食事もままならない。命令して無理やり食べさせる。

こんな状態では一人に出来ないので、母が帰った後はホテルの部屋を同じにした。
夜も寝ようとしないので、無理やり寝かす。
まるで子供の世話をしているようだ。

遺体の移送手続きなどがやっと終わって、個展も最終日なので、星羅を連れて見に行く事にした。
最初は嫌がったが、隆次の最後の仕事なんだからと、無理矢理引きずって行った。

個展はニューヨークでも評判で、皮肉にも追悼という意味でも賞賛があったのか、終わりかけの時間でも沢山の人が居た。

会場についても、 星羅はずっと俯いたままだ。
ニューヨークに来て、星羅を目にした時から泣いた所はまだ一度も見ていない。気丈に振る舞っているという訳でもなさそうだ。

食べて無いせいで、元から白い肌なのにさらに青みがかって、ますます透き通った肌になっている。もうこのまま本当に蝋人形にでもなるんじゃないかと思うほどに。
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