遅すぎた初恋
俯いたままの星羅を引っ張って、一枚一枚絵を見て回る。星羅にも声をかけるが反応はない。
順々に見て行くと、一際人が集まっている所に差し掛かった、

そこには、畳一畳分程の絵が飾られていて、描かれているのは美しい女性だった。
幾重にも差し込む光りの中で愉しげに波と戯れる星羅が描かれていたのだ。
ああ、美しいと思う。本当に美しい。

星羅に「いい作品だ。見てみろ。」と促すが、いやいやとして頑なに顔を上げない。可哀想だが、後ろに回って無理矢理顔を上に向かせた。

「しっかり見るんだ!お前の愛する男が描いた絵だろう!お前には見る責任がある!隆次がどんな思いで絵に打ち込んだのか、しっかり受け止めろ!素晴らしいんだ!本当に美しいんだ !頼むから見てくれ……。」
そう必死に訴えるとやっと見てくれたのか、

星羅が目を見開き、そしてポロポロと涙が堰を切ったように流れだし、言葉をこぼし出した。
「私のせいなの!私のせいっ!私を迎えに来なければ、隆次さんは………。隆次さんはぁぁぁ……。私がぁ……。」

泣き崩れそうになる星羅を抱きしめ、よしよしと頭を撫でる。そして慰さめにはならないかもしれないが、静かに諭すように言葉をかける、

「それは違うだろ、君のせいじゃない。誰だって大切な人を失えば、色々理由をつけて自分のせいにしてしまうだろう。隆次はただ君を迎えに行きたかっただけだ、愛しい人を迎えにね。それは当たり前の行動だよ。君に会えなかったのは無念かもしれないが、それでも君のせいでなんて隆次が思うわけないだろ?」
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