遅すぎた初恋
「ちゃんとした環境って何ですか?お金ですか?家柄ですか?そんなの私は一つも大事だとは思えません。
貧しくても、愛情を注いで注ぎまくって育てたら、人はちゃんと育つと思います。家の格式にとらわれて、隆次さんのように窮屈な思いはさせたくないのです。」

「詭弁だな。愛情だけでは人は育たない。生きて行くためには飯だって食べなきゃいけない。今のご時世勉強するにも金がかかる。貧しいながら立派な人間に育つなんてよっぽど親も子も出来た人間だ。
確かに君なら立派な親にはなるかもしれない。だが確証はない、今の現状先は見えている。
みすみす隆次の子に、しなくてもいい苦労を背負わせたくはない。」

「………。」

「隆次の事でもそうだ、確かに自由の効かない窮屈な思いはして来たかもしれない。
だが金が無ければ無いで、選択肢が狭まって窮屈な思いをするだろう。隆次が大学まで何不自由なく行けたのは、親の金のおかげだ。
アトリエを構えれたのも元はそうだ。絵の才能は隆次の努力かもしれないが、それでも根本的には親のおかげだろう?」

「………。」

「聞き分けが悪いようなら、生んだ後、君からその子を取り上げる事になるが、それでもいいか?
ま、こういう事になるから私に隠したのだろうが…。
私が帰ったあと逃げられても困るから、このまま私と来てもらう。」

「………。」

「ここの部屋の事や荷物の事は榊に任せてある。いくぞ。」
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