遅すぎた初恋
彼女は、「酷いな。妊婦にする態度じゃないと思います。苦しかったあ」と乱れた髪を整えながら恨めがましく言って、ふっと素に戻って、

「そうですね。お陰でだいぶ元気になりました。私、ここの方々に愛されていたんですね。お義母様や皆さんにあんなに泣いて喜ばれるとは思ってなかったです。
確かに良くしては頂いてましたけど、それはあくまで隆次さんの妻だからだと思っていました。
その隆次さんが居なくなったら私はここに居るべきではないと思いましたし、元々釣り合わない人間だったので居なくなっても全然悲しまれる事などないと思ってました。
今日お義母様に会って本当に申し訳無かったなあと思います。
私はこの子を独り占めしようとして居たんですね。
私だけがこの子を愛している。私だけがこの子を愛してあげていたら十分だろうって考えていたんです。
この子が他の人から愛される権利を取っていたんです。無意識だったけど、それはとても罪深い事だったんです。
この子の幸せはこの子自身で決める事なのに。」

そう穏やか言った星羅はスッと息をはいて、

「今は、お義兄さんに無理矢理拉致されて良かったって思います。」

と、にっこりと笑い掛けて来た。

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