遅すぎた初恋
そう言うと、「分かりました。」と素直に答えて去り際に、

「お義兄さんて、やっぱり良い人ですね!大嫌いって言ってごめんなさい。」

と笑顔でパタンっとドアを閉めた。

やれやれと思いながら、窓の方にくるりと椅子を回して遠くの景色を眺めながら、今しがたのやり取りを思い浮かべる。
星羅を愛しく思う。
その感情は面白いもので、抑え込めば抑えるほどその思いは大きくなる。
愛しい、触れたい、欲しい。実際、ここに置いておかないと、私は感情を抑えずに彼女に触れてしまいそうになる。
マンションではトキさんや榊の目があるからと、なんとか抑え込んでいたが、このまま連れ帰ったら、それこそ犯罪者に成り下がりかねない。
実際薔薇園では、衝動に駆られてもう前科一般だ。

そう易々と人に心を動かした事など今までなかった、それこそいつしか人間の心を何処かに置いて来たのだと思っていた。
それを、一回り以上離れている小娘にましてや弟の妻に、まんまとやられてしまっている私は、本当に滑稽だと思う。
だが抑えようにも収まらず、この気持ちのやり場にほとほと困りはてている。

彼女が弟の子供を身ごもった事は、私にとって大きな逃してはいけないチャンスだと思う、だからこそ、慎重に慎重に彼女が自然と自分の腕の中に落ちて来るようにしなければと考える。
誰が他の女性となど結婚するか!

愛しい人よ逃しはしない。けして。
あの薔薇園での出来事を思い出し一人悶える。
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