遅すぎた初恋

そうきっぱりと言い切る彼女の瞳から、暫し目が離せられなかった。深い海のような神秘的な瞳だった。自分の奥深くの何かが呼び起こされる気がした…。

私は視線をそらし、深い溜息をついて、
「調べが着くまでは…だな。」

と告げると、彼女は安堵したのかパッと綻んだ顔を私に向けた。
そんな様子にまた一瞬彼女を見入ってしまう自分にどこか羞恥を覚え、苛立ち、
「お前の笑顔は虫唾が走る！今後一切私に笑顔を見せるな！本来なら二度と関わりたくない！話しは終わった。この部屋を出て行けっ！」

と彼女を恫喝した。

彼女は少し戸惑いながら席を立ち、曖昧な表情を浮かべてペコッと頭を下げ、応接室を出て行った。

彼女が出て行ったのを見送ると自ずと、深い溜息が出る。なんなんだ！あの女は！
「せっかくの休暇が台無しだな。休暇の間くらいは怒鳴らずに過ごしたいものだ」と、こめかみを押さえ、深くソファに身を沈めて先程までの出来事を思い出した。
「「愛している。」か…」彼女の真っ直ぐな瞳を思い出す。
「ただの純粋で無垢な乙女か、はたまた稀代の悪女かだな。」 「早々に調べて、必ず追い出してやる。」
やれやれと机に向かい、受話器を取って秘書の榊に鈴白星羅の身元調査等を命じた。

久々の再会に喜ぶ使用人夫婦に、泊まるように促されていた弟達だが、「まだ今なら本州への飛行機に間に合うから」と、最終の船便に乗って戻って行った。