遅すぎた初恋
「それと、あまり無理に色々とお考えにならなくても大丈夫ですよ。今はまだ被害届も出ておりませんし。たぶんこの先も出ないでしょうし。我が社の代表がわいせつ罪で捕まるなんて目も当てられませんものね。ま、そんな事は万に一つもないでしょう。」

と何故かそんな事を投げかけて来た。
私は青ざめる。そんな私に向かって容赦なく「あら何か思い当たる点でもございますか?早くお仕事して下さいね。」と、涼しげに出て行った。

榊の容赦ない言葉に促されて、仕事をした。
しまくった。頑張った。そして倒れた。

その年のインフルエンザは猛威をふるって、例年ではかからないはずの、私の体も餌食になった。
あまりの高熱に意識が朦朧とする中、星羅が心配そうに私を見つめている。手を伸ばし「そんな顔をするな。星羅、愛してるよ」と囁いてやる。

ハッと起きれば、部屋は真っ暗で誰もいない。いる筈もない。
熱を計ると薬が効いたのか下がっていたので、近くのコンビニに水でも買いに行こうとマンションを出た。

榊も母にも助けを求めたが「そんなインフルエンザぐらいで大の大人がしのごの言うな」と言われ拒否された。
母には「星羅ちゃんが臨月に入ってるのに、誰か寄越してうつされでもしたらたまったもんじゃないから無理!誰も行かせられません!少しは熱でその卑猥な事しか考えない脳みそを溶かしてもらえ!このセクハラおやじ!」と一方的に電話を切られた。
< 82 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop