遅すぎた初恋
私が、ゆかり様に初めてお会いしたのは、隆俊様の秘書に付いて間もなくの頃。

私の家は高柳家の分家の分家の分家のそのまた分家…。なんてもはや他人のようなものではあったのだが、隆俊様のお側で秘書をと、本家に覚え目出度い父に言われて隆俊様の下で働く事になった。

隆俊様は幼少の頃から心臓がお悪く、線も細い方で見た目は神経質に見えるが、そんな事を感じさせないくらい快活な好男子ではある。
容姿に家柄の良さも加わって、モテはするがなかなか結婚しようとしなかった。

「私は、いづれ皆より早くこの世を去るだろう。そんな男に嫁いだところで、相手が不憫なだけだ。どうせ、私はこの長く続いた高柳家のほんの一欠片にしかならん。だれか親族で私よりも優秀な人物が出たら、そいつに継がせればいい。私はそれまで、潰さんように頑張るさ。」

と、いつも口ぐせのように言っていた。

だが、何人目かの見合いの後、
「榊、面白い女がいたぞ。歳は私よりうんと下なのに、私に食ってかかるんだ。本来なら深層のお姫様だから、しおらしいはずなのに、微塵もそんな素ぶりを見せないんだ。」

と、嬉しそうに言ってくる。

実際、隆俊様の結婚なんて、政略結婚のようなものだ。
相手の女性は、皆しっかりとした血統書付きで、どこに出して恥ずかしくないくらいの、見目と躾が行き届いている方ばかりだ。
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