副社長は今日も庇護欲全開です
柔らかな感触がする……。ほんの少し、甘い香りがするけれど、これは直哉さんの匂い……?
「おはよう、陽菜」
目を開けると、ベッドに腰を掛け微笑みを浮かべる直哉さんの顔がある。そうだ、私は彼のマンションに泊まったんだった……。
昨夜の甘い時間が、まるで遠い出来事のように感じられたのは、直哉さんがすでにスーツ姿になっているからだ。
「おはようございます。もしかして、寝坊しちゃいました?」
起き上がると、直哉さんは小さく首を横に振った。
「いや、六時だから大丈夫。俺は、今朝はもう出ないといけないから」
「そうなんですか? 早いんですね……」
ここからだと、会社までは車で十分ほど。こんなに早くから、仕事に行くなんて知らなかった。
「いろいろと、詰めないといけない内容があってね。俺は行くけれど、陽菜はいつもどおりに出社すればいい」
「はい……」
立ち上がった直哉さんは、鞄を手に取るとベッドルームを出ていく。彼の後ろを足早について行きながら、玄関までお見送りをすることにした。
「今夜は……帰るか?」
靴ベラで靴を履きながら、直哉さんはさりげなくそう聞いてきた。
「そうですね。今日は、自分のマンションへ帰ろうと思います」
本当は、毎日だって一緒にいたい。だけど、それがワガママだと分かっているし、けじめをつけるのは大事……。
自分にそう言い聞かせ、彼にはっきりと答えた。
「分かった。じゃあ、また会社で……。会えるといいな……」
靴を履き終えた直哉さんは、静かに言う。たしかに、同じ会社といっても、顔を合わせないことのほうが多い。もしかしたら、しばらく会えない日が続くかもしれないんだ……。
そんなことを考えたら、とたんに切なくなってくる。寂しさを隠して、彼に笑みを向けると、ふいに唇を重ねられた。
「ん……。直哉さん……」
舌を絡められ、呼吸があっという間に乱れていく。痛いくらいに抱きしめられながら、熱いキスを数分、交わした──。
「今夜はきみに会えないと思うだけで、こんなに寂しいものなんだな」
直哉さんの言葉に、私も自分の気持ちに素直になっていく。
「私も、同じ気持ちです。直哉さんと、ずっと一緒にいたい……」
彼の背中に、そっと自分の腕を回す。すると、直哉さんも私を抱きしめ返して言ってくれた。