副社長は今日も庇護欲全開です
直哉さんの結婚相手ですか!?
え……? 結婚ってどういうこと? 思いがけない会話を聞いて、かなり動揺する自分がいる。”茉莉恵”さんという名前は、今まで聞いたことがない。

というより、直哉さんは以前、私に話したい女性はいないと言っていた。それなのに、どうして女性の名前が出てくるの?

それも、結婚って……。息を呑み、ノックしかけた手を下ろす。もう少し、聞いてみようか……。そう思い、ドアの前で立ちすくんだ。

「それは、断っている」

直哉さんのぶっきらぼうにも聞こえる声がした。

「ですが、社長は茉莉恵さんとのご結婚に意欲的です。もう去年から、出ているお話なのですから」

住川さんのその言葉に、絶句してしまう。去年から、茉莉恵さんという人との結婚話が出ていたというの? それなのに、私と付き合っているということ……?

動揺で、体が熱くなってくる。直哉さんが、不誠実な気持ちで、私と付き合っているとは思えない。思いたくない……。だけど、直哉さんに対して、社長が意欲的になっている結婚話があることには、間違いないみたい……。

「だから、毎週末、父には会って説得している。それに、竹田社長にもな」

竹田社長という名前が出て、どこかで聞いたことがある気がする。記憶を辿っていると、いつだったか副社長室へ来たときに、鉢合わせになった他企業の社長さんだったと思い出す。

あのとき、恰幅のいい男性と直哉さんは話をしていたっけ。たしか、アポなしで来られていて、”竹田社長”と呼ばれていた気がする。

もしかして、結婚話のことで訪れていたかもしれないんだ……。

「毎週末ということは、失礼ですが下村さんにお会いできていないのでは?彼女には、お話されているんですか?」

「していない。彼女には、はっきりとしてから話そうと思っている」

「はっきり? ご結婚のお話が進められているというのに、ご相談もしないとは……」

住川さんのどこか苛立ったような声に、直哉さんはそれ以上なにも言わない。それは、やましいことがあるから? それに、半月も週末に会えなかったのは、そういう事情だったんだと知って驚くばかり。

てっきり、仕事が忙しいからだと思っていたのに……。
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