副社長は今日も庇護欲全開です
直哉さんに限って、私を裏切るはずがない……。そう思うのに、心のどこかで疑う自分がいる。どうして、私に話しをしてくれなかったの?

心にもやもやを抱えたままでいると、急に副社長室のドアが開き、住川さんが出てきた。

「下村さん!? どうしてここへ?」

さすがの住川さんも、驚きで動揺を隠せないでいる。彼の声に気づいたらしい直哉さんが、足早に私の側へ来た。

「陽菜……。聞いてたのか?」

直哉さんも、堅い表情で私を見ている。想像もしていなかった会話に、戸惑いでいっぱいの私は小さく頷いた。

「システム部の資料を、お持ちしたんです。課長に頼まれましたので……。アポになっていなかったんですね。すみません」

本当は、今すぐ茉莉恵さんのことを聞きたい。だけど、業務中だから、それはできなかった。

「俺が頼んでいたものだな。早い対応をしてくれて、ありがとう。それと陽菜、きみに話さないといけないことがあるんだ」

「はい……」

茉莉恵さんのことだろうと、聞かなくても分かる。だけど、こうやって私が偶然耳にしなければ、話そうと思わなかったのかと思うと切なくなる。

「できるだけ早いほうがいいと思うんだが、きみはいつなら時間が取れる?」

「いつでも大丈夫です。直哉さんのお時間が取れるときなら……」

半月も、会えなかった理由はなんだったんだろうと思ってしまう。こうやって、当たり前に約束を取り付けられようとされると、会えなかった時間が空しく感じられる。

そんな風に思ってしまう自分が、思いやりがなくて嫌になってくるけれど……。

「じゃあ、今夜。俺のマンションで待っていてくれないか? 帰りは送るから」

「はい……」

いつも持ち歩いている彼の部屋の合鍵。ほとんど使うことがないままだったのに、こんなもやもやした重い気持ちで使うことになるなんて。なんて皮肉なんだろう……。
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