副社長は今日も庇護欲全開です
私の言葉を聞いた副社長は、小さく口角を上げると身を翻した。

会社では、笑うどころか微笑む姿だって見たことがなかっただけに、時折見せる彼の笑みにドキッとしてしまう。

副社長の微笑みは、本当に優しくて暖かい雰囲気があるな……。

「車は、こっちに停めてあるんだ」

駅前には、数十台ほど駐車できる場所がある。屋根のある駐車スペースに向かうと、副社長は一台の高級車の前で止まった。

それは、シルバーのセダン型で、とてもスタイリッシュなボディをしている。

ロゴから、海外の高級メーカーだとすぐに分かった。

「乗って」

「はい、ありがとうございます」

副社長は助手席のドアを開けると、私に入るよう促す。ほんのり香る甘い匂いがする車内に、静かに乗った。

柔らかい皮のシートに座ると、まるで体を包み込まれるよう。

心地いい車内だなと思っていると、左側の運転席に副社長が乗り込み、途端に緊張してきた。

「じゃあ、行こうか。帰りは、自宅まで送るから」

副社長はそう言いながら、シートベルトを締めエンジンをかける。

私は驚きの目で、彼を見た。

「いえ、そこまでは申し訳ないです。スペアブホテルから駅は近いですし、電車で帰りますので」
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