副社長は今日も庇護欲全開です
ホテルに着き、副社長と並んでロビーを歩く。暖かみのあるオレンジ色の明かりに照らされていて、二階までが吹き抜けになっていた。

グランドピアノや、上質なソファーが置かれ、さらには螺旋階段もあり、その光景はため息が出るほどに美しい。

それに、利用客も皆どこか品のある人たちばかりで、そんななかでもひときわ目立つ空気を放っている副社長に、感心してしまった。

すれ違う女性の何人かが、チラチラと彼を見ている。

「副社長って、本当に素敵ですね。私が、隣に並んでいていいのかなって思っちゃいます」

ぎこちなく微笑むと、副社長は表情を変えることなく私を見た。

「ありがとう。だけど、“隣に並んでも”って、どういう意味だ?」

「それは……。副社長の隣に立つのが、おこがましいというか」

そこを突っ込まれるとは思わなくて、しどろもどろに答える。副社長は、そんな私に怪訝そうな目を向けてから、エレベーターのボタンを押した。

「きみは、じゅうぶん魅力的だと思う。おこがましいなんて、感じる必要はない。俺の肩書きは、会社の中だけのものだから」

「ありがとうございます……」

褒められて、嬉しい気持ちと照れくさい気持ちが入り混じる。

真中副社長は、御曹司で次期社長と言われている。だからもっと、近寄りがたくて、プライドの高さを感じるような人かと思っていたけれど……。

今、一緒にいる副社長からは、そんな雰囲気はまるで感じられない……。
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