副社長は今日も庇護欲全開です
「あ、あの。副社長、もしかして私のためにここへ来てくださったんですか?」

副社長と向かい合って座ると、彼は穏やかな笑みを見せた。

「俺が、そうしたかったからだよ。以前に仕事関係で来たことがあったんだが、今度はプライベートで来てみたくてね」

「そうだったんですね……」

副社長の言葉は、きっと少し違っている。かしこまった場所より、私が落ち着けるからここを選んでくれたはず。

だけど、それを言わないのも、きっと副社長の優しさから。言葉にしてしまえば、私が気を遣うと分かっているからだと思う。

初めて私を助けてくれたあの夜から、副社長は本当に優しいもの……。

だから私も、副社長の思いやりを素直に受け止めよう──。

「下村さん、なに食べる?」

メニュー表を手渡され、目を落とすと値段の高さに驚いてしまった。

簡単には、注文できないな……。と、心のなかで呟いていると、副社長の穏やかな声がした。

「ご馳走するから、気を遣わず好きなものを注文して」
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